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ナースを応援する看護師が考える訪問看護師としてのキャリアプラン

記事掲載日:2022/12/12

ナースを応援する看護師が考える訪問看護師としてのキャリアプラン

超高齢社会への突入や、厚生労働省による地域包括ケアシステムの構築など、昨今は在宅看護の需要が高まっています。そこで重要な役割を担うのが、療養を必要とする方の自宅や老人ホームなどへ訪問し看護を行う「訪問看護師」です。

しかし看護師のキャリアイメージとして、病棟内でのスキルアップやキャリアチェンジが強いため、訪問看護師は興味を持っている方は増えているものの、スキルや働く環境に不安を抱えてなかなか踏み込めない方も多いです。

そこで今回は、ナースを応援する看護師として働く訪問看護師の西山様に、訪問看護師としてのやりがいやキャリアプランについてお話を伺いました。



【お話を伺った人】

西山 妙子様

マインヘルスケア 代表取締役

むさし国分寺訪問看護ステーション

訪問看護師



現場からの声「訪問看護の魅力ややりがい、課題」とは

訪問看護の実態は、医療機関で働く看護師には伝わりにくいのが現状です。 実際に訪問看護師として現場で働いている西山様へ、訪問看護のリアルな声を伺いました。

病棟での看護と在宅での看護の違い

――訪問看護師として働き始めたとき、病棟での経験が活きたと思うことはありましたか

西山妙子様(以下、西山様):病棟と在宅の違いは、「働く環境」だけだと思います。たとえば病棟ならナースステーションから廊下をわたって病室に行き、訪問看護ならナースステーションである事業所から街中を移動して利用者さまのところへ行きます。

現場での看護内容は大きく変わらず、病棟で培ってきた看護の知識や経験、アセスメント力は全て活かせると思っています。 例えば人工呼吸器を扱った経験や膀胱留置カテーテル、経管栄養など、医療機関と比較すると実践する機会は減りますが、訪問看護の現場でも看護師として実践することは変わりません。

――訪問看護師になることで技術が活かせなくなるという声も聞かれますが、そちらはどうお考えでしょうか

西山様:点滴や採血などの手技という面では、確かに病棟と比べると実践する機会は減ります。しかし技術=手技というわけではありません。

訪問看護では、より深く柔軟にアセスメントやプランニングをして実践、そして評価する必要があるため、病棟で得たアセスメント力や判断力などの技術や経験が十分に活かせます。量よりも中身「質」といえるでしょうか。

――訪問看護師として働く中で感じた、病棟にはない在宅看護の魅力はなんでしょうか

西山様:在宅看護の魅力は、同じ利用者さまと長くお付き合いできる点です。病院やクリニックなどの医療機関では退院したり、通院が終わったりしたら、もう会わないという方もいますが、訪問看護は長期的に関わり続けられます。

長い関わりの中で生まれる個々の利用者さまとの関係性も魅力です。

認知症の利用者さまとお散歩したり、ご本人や家族に名指しで感謝されたりなど、深い信頼関係を築きながら関われます。逆に、訪問看護では信頼関係がないと何もできません。

ケアを実践できなかったり、訪問もさせてもらえなかったりと利用者さまとの信頼関係は病棟以上に欠かせないポイントであり、看護実践においても非常に重要な部分ですね。

多職種連携の重要性。訪問看護の現場で感じる課題とは

――訪問看護の現場で、課題を感じた場面などあれば教えてください

西山様:訪問看護の課題は「地域連携」でしょう。

※訪問看護における地域連携とは、利用者さまが安心して地域で過ごせるために、利用者さまの担当の病院やクリニック、担当のケアマネージャーや介護ヘルパー、管轄の役所の担当者などと連携を取ること

利用者さまについて、通院されている病院の看護師さんとお話したいと思っても、20分ほど待った後に「わかりかねます」で終わってしまったことがありました。利用者さまの担当の病院やクリニックと連携する難しさから、なかなか主治医の先生に報告しにくいと思う訪問看護師もいます。

ただし、ケアマネージャーさんやヘルパーさん、主治医など、さまざまな職種を含め、チームで利用者さまの生活を支えるという点が訪問看護の醍醐味です。連携の難しさを感じる場面は多いですが、チームとして利用者さまに関わっていくことで、より良い医療の提供につながるのではないでしょうか。

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訪問看護師として働く中で感じた看護師のキャリアプラン

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医療機関や施設勤務から訪問看護師にキャリアチェンジする方もいるなかで、その後のキャリアに悩む看護師も多く存在しています。そうした状況の中で西山様の考えをお伺いしました。

訪問看護師へのキャリアチェンジや訪問看護師からのキャリアの選択肢

――病棟から訪問看護師へキャリアチェンジする中で、変化した点やメリットはありますか

西山様:私自身、病棟から訪問看護へ変わったのは、子供がまだ小さいときでした。育児もあり、実は週に2回、1日2時間半からという条件で訪問看護をスタートしたんです。

子供が幼稚園に通っている短い時間でも働ける「働き方の柔軟性」は、私にとって大きなメリットでした。

病棟での勤務も考えましたが、実際は「処置係」のような形で点滴や経管栄養に回ったり、褥瘡(じょくそう)の処置をしたりなどの役割が多く断片的にしか患者さまと関われないため、私はやりがいを感じにくかったです。

しかし訪問看護の場合は、短い時間でも利用者さまとしっかり関わることができます。訪問看護の場合は医療機関での1時間や30分と違い、正社員でも非常勤でも、同じ質の看護を提供します。

そのため、限られた時間でも、やりがいを感じることができ、看護としてのキャリアを着実に歩めました。

――給与面の実態はいかがでしょう

西山様:給与面は地域ごとに異なり、事業所によっては訪問件数が増えるほどインセンティブを与えたり件数ごとに給与がアップしたりするところもあると聞きます。

私は家庭との両立という点を大事にして働き方を考えていましたが、自身の裁量で柔軟に働き方を選択できるのは大きなメリットではないでしょうか。

事業所によっては、訪問件数ごとに手当があったり、インセンティブをもらえたりします。男性スタッフや若手のスタッフなど、たくさん訪問件数を回ってガツガツ稼ぎたい人はそうした働き方もできます。

一方で私のように家庭を大事にしたい方や、プライベートを大事にしたい方は、訪問件数や勤務時間を定めて、その範囲で柔軟に働くこともできます。働き方は相談して途中で変えることもできるので、もし子供ができてゆっくり働きたくなったり、家庭が落ち着いたからもっと訪問件数を増やしたかったりした場合は、相談しても良いですしね。

事業所によっては夜勤がなかったり、夜間対応を所長さんがやってくれたりといったケースもあります。夜勤による体の負担が心配な方は、そうした面も病棟に比べプラスとなるでしょう。

――訪問看護師として働いてからの看護師のキャリアプランについて、どのような選択肢があるでしょうか

西山様:病院の地域連携室や入退院調整に関わる仕事が考えられます。

在宅の現場を知らない看護師では、適切な状態で患者さまの退院を判断することは困難です。実際に、在宅で過ごせるほど調子が良くない状態で退院された利用者さまと関わることもありました。それは、病院側が「患者さまが家に帰ったらどんな生活をするのか」を想像できなかったり、情報を把握できていなかったりすることで起きてしまいます。

在宅での過ごし方・生活をイメージできる看護師が病院にいるだけで、地域との連携もしやすくなると思います。私も訪問看護で経験を積んだあと、病院に戻り看護部長として働き、訪問看護の経験を活かしながら在宅との連携をとっていました。

訪問看護師として働いたあと、在宅の現場を知った看護師として再度、医療機関に戻り地域と連携をとるのは良いキャリアアップの選択だと思っています。

あとは看護師として起業し看護を提供してお金をもらえるのは訪問看護師だけです。自身の事業所を持つことも選択肢の一つとして良いですよね。

看護師のキャリアチェンジに重要なこと

――看護師のキャリアについて、情報収集で活用するメディアはありますか

西山様:現代は様々なメディアで誰もが情報を発信できますが「信頼できる人の信頼できる意見を聞くこと」が大事かと思います。

情報の信憑性を見極める一つの軸として、この人の言うことだから信頼できるというものがあった方が良いと思います。 私自身は、オープンチャットを情報収集のツールとして活用しています。仕事の愚痴を話すようチャットもあれば、訪問看護の経営者が集まるチャットもあります。同じ価値観を持った方のリアルな意見を聞ける点が、コミュニティのメリットです。

ただ、最終的に自分がキャリアチェンジを検討する際には、軸を持つことが重要です。溢れる情報に流されるのではなく、自分のキャリアプランや看護観をしっかり持ちながら情報収集していただきたいです。

情報を収集する過程で信頼できる人に相談することは重要だと思うので、ナースステップ様のような転職エージェントに頼ることも一つの手段ですね。 自分自身のキャリアプランや看護観に悩みや不安があっても、エージェントの方に相談することで、マッチする職場について相談することもできるのではないでしょうか。

キャリアに悩む看護師へ伝えたいことやアドバイス

最後にキャリアに悩む看護師や、訪問看護師として働く方に向けて伝えたいことやアドバイスを伺いました。

まずは行動。訪問看護で最も重要なこととは

――訪問看護師に興味があっても、不安を感じている方へアドバイスをいただきたいです

西山様:病棟での経験が少なくても、看護のプランニングがわかっていれば訪問看護は誰でも挑戦できます。

また訪問看護では病棟での経験よりも、礼節や誠実さが大事です。ご自宅に訪問した際には笑顔を心掛け、他にも脱いだ靴をそろえたり、扉を大きな音を立てて閉めないようにしたり、物を大切に扱ったりといった部分があげられます。

看護師としての経験はあとからついてくるので、礼儀を弁えたコミュニケーションが一番重要だと思います。私も最初に働いた訪問看護ステーションで、所長さんに「接遇がしっかりしていれば誰でもできます」と言われました。

とはいえ人から聞いた話よりも、見たり体験したりしたことの方が大事でしょう。体験したことは聞いたことよりも100倍くらいの価値があると思います。

事業所によっては入職前に見学や体験ができる場所もあります。訪問看護についてのイメージが湧かなくても、入職前の見学や体験をすることで、訪問看護の実際はどのようなものなのか、生に見て感じることができます。

訪問看護における看護のイメージが実際に湧かない人は、そういった不安を転職エージェントへ相談して、体験や見学ができる訪問看護ステーションを探してもらっても良いかもしれません。入職後のギャップを防ぐこともできます。

――すでに訪問看護師として働いている看護師へのアドバイスはありますか

西山様:在宅で過ごす利用者さまは、状態が安定しているから在宅にいるというケースがほとんどです。そして在宅の現場はゆっくり時間が過ぎていくので、不安を感じすぎず、焦らず、安心して働くことが大事かと思います。

もし不安なことや困ったことがあれば、周りの先輩看護師や所長に相談すれば大丈夫です。自分一人で抱える必要はありません。

私はいつも皆さんに「オーバートリアージでも良いよ」と伝えています。 結果が良ければ、過程を気にしすぎる必要はありません。少しの不安でもまずは周囲へ相談したり受診行動につなげたり、次のアクションを踏むことが看護師として大事だと考えます。

訪問看護師として働く中で、いろんな人とコミュニケーションを取り連携し、助け合うことがポイントです。訪問看護での楽しさともいえますが、訪問看護ではその日の訪問から帰ったあと、ステーションで利用者さまの情報を共有するために話し合います。

スタッフは帰ってきて話したいことがたくさんあるので、すごく盛り上がりますよ。

――最後に、訪問看護で西山様が楽しいと感じ、モチベーションにつながるのはどんな場面でしょうか

西山様:「看護師さん」ではなく「西山さん」が来てくれてよかったと利用者さまに言っていただけることです。

看護師としての評価だけではなく、個人としての評価を直接受けることができるのは、とてもやりがいであり楽しさでもあります。

また、医療機関と異なり自分が実践した看護の答えが次の訪問で活きるのも、看護師としてのモチベーションになっていると感じています。これは、同じ利用者さまのところへ長く訪問でき、変化を観察し初めて得られる経験・体験です。

もちろん、状態が急変することもありますが、悪くなる前の過程を一緒に過ごしているからこそ、必要なケアや言葉かけができていると感じます。

これが看護だって思える思考を持って、看護を実践するのもやりがいだと感じています。たとえば、ただの散歩ではなく、散歩に看護としての意味を見出すことが大切と思います。

たとえば訪問看護で、ある100歳の認知症の利用者さまと散歩に行っていました。 その利用者さまは、周りに一緒に外出してくれる方もおらず、ご年齢からも家にいるだけだと、どんどん筋力が弱まりできることが狭まってしまいます。そのため散歩をすることで、リハビリへの意欲に繋がったり、毎日の楽しみになってくれたり、というのを看護の目的として行っていました。

そのため、医療機関での勤務と比べると、さらに看護に意味を持って提供できるようになれると思います。

また、訪問看護師として利用者さまと関わる中で、利用者さまと八百屋に行ったり、入浴介助をしたりしていて、人と触れあう温かさを感じます。その温かさにこちらが癒される場面も多くありますね。

まとめ

ここまで訪問看護のキャリアや訪問看護の現場について、西山様にお伺いしました。 病棟から訪問看護師へのキャリアチェンジには、スキル面での大きな差はなく、接遇や利用者さまと向き合う誠実さが重要と教えていただきました。

接遇や誠実さがあれば、医療機関でしか働いた経験がなくても、臨床経験が浅くても、訪問看護の現場で働くことは十分に可能です。

訪問看護の需要が拡大する現代、柔軟な働き方の選択や在宅でしか得られない利用者さまとの関係構築など、ご自身のキャリアを描く上で、訪問看護という選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。

また看護師のキャリアチェンジやキャリアアップ時には、西山様のようにそれぞれの価値観や看護観をしっかり見極めることで、転職先とのミスマッチを減らせるでしょう。

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ご自身が大切にしたいキャリアや、看護観などをエージェントに伝えて相談し、医療機関から訪問看護への道を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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